腸内見学ツアー

 昨秋、大腸ガン検診に引っかかった。

 内視鏡検査を受けることになり、私には結構ハードな体験だったので途中経過をメモってみた。

 姪の結婚式出席のため横浜まで行き、息子のところで羽根を伸ばして帰ってきたら、通知が届いていると家族が知らせてくれた。

 病院にいって検査の予約は四週間後の九時から。休院日だったが、同士は五、六人おりました。

――事前準備――


いよいよ当日の五時から本格的な下剤飲み。これが随分きつかった。コップ一杯を十分毎に飲むのである。昨夜の二粒が効いてきたのか、グッと飲む。即トイレへ走る。

我が家のトイレは茶の間と三米位離れているかな、ウン、説明などしている暇は・・・。

 数回目からは時間切れで、トイレで座りながら飲んだことあり――このまま座り続けたほうが楽かなと思ったが、そうもいかぬ。

 へとへとになって、二リッターを飲み干すころには、指示通りに雲(ウン)に色はつかなくなっていた。やれやれ。約三時間の糞闘(誤字にはあらず!実感です!) でした。恥ずかしながらトイレまで間に合わず、下着の着替えがなくなりそうに・・・。

 若い者を真似て朝風呂としゃれて、奇麗さっぱりと病院へ、と言いたいが、その反対。

 睨みながら飲んだ空のポリ容器を持って、完全な空腹を抱えて、唯一許された飴玉をしゃぶり、とぼとぼ3千里・・・。さながら屠所に引かれる牛の如しで、その道のりの長かったこと・・・。


――手術台へ――

 手術衣に着替えると、これまたお尻のところに丸い穴があいているではないか。小さいころ冬になると着せられた莫大小製で前後ろのあいた腹掛け又引きよろしく・・踏み台を経てエビ上に横たわる。

 待つことしばし、目隠しされた遡上の鯉。牛や蛙や鯉になったり、忙しいことよ、いつもならニヤリとするところだが、とてもそんな気にはなれぬ・・・。

(二年前同様、無罪放免にはならないだろうか・・・)

 (いや、いや、今度こそ覚悟か・・・)

 (大腸ガンの初期には自覚症状がないそうだ・・・)

 (従妹や知人も人工肛門だったっけ・・・)

 (家族には今度も大丈夫だぁと出てきたが・・・)

悪いほうへ、悪いほうへと考えが及ぶ。


先生の声あり、「東さーん、少し痛いですが我慢して頑張ってください。すぐ済みますから。もし余裕がありましたら、そのモニターで自分の腸内を見てください。では始めます」


マウスピース用のものをグッと差し込まれ、もう観念するしかない。

目を閉じる。

 下腹部に力をいれないでと言われたってぇ、せざるを得ない・・・。緊褌一番(あいにく褌の持ち合わせはないが)の気持ちになる。

 パッと目を開けてモニターを見た。

 ウワー、淡紅色で奇麗だ。薬のコマーシャルを見ているようで、これが俺の腸内かと目を見張る。

 医療機器をはじめ、他の機械の発達の目覚しいこと、コンピュータの導入によって長足の進歩を遂げたんだなあ。

 最近まで自分の腸内を覗くなど思いも及ばなかった。

 一糎ちょっとの横穴が見える。盲腸だそうだ。

 うむーと突然、グ、グッと小突き上げられるような激痛が三回。「右に曲がりまーす、左に曲がりまーす」というガイドさんの解説はなかったが、腸のカーブとか。

 胃の入口まできたような気がしたが、まさかね。


――帰 り――

 医者はポリープを二ヵ所発見せり。戻りにその辺を詳細に観察し、そのひとつからサンプルを採取。ピンセットみたいのでつまみ取ったのだが、ポチッと真っ赤な血・・・。

 体外からの遠隔操作には、大正生まれは脱帽です。

 以上で我が腸内見学は終わりです。


――結 末――

 サンプルの分析結果は二週間後。結果は良性。よってポリープは当分処置しなくてもよし。病院の管理下に置かれるものなり。

 やっと胸を撫で下ろしました。