古 稀
俺もやっと七〇才をクリヤーした。古来稀なり、と言うが平成の今どこを見廻しても、稀ではなくなった。俺もただ乗り越えただけで、到達点ではない。生きる力はまだまだ。
酒をこよなく愛した杜甫の詩にこういうのが出てくる。『曲江』より
酒債 尋常 行処有
人生 七十 古来稀
「酒の借金は当たり前、行き先々についてまわる、どうせ人間七十まで滅多に生きられるもんじゃない」という、呑ンベエの、やけっぱちな詩だ。少しも古稀を祝っていない。いささか共感も覚えるが、家族持ちはそうもいかない。これにはこだわらず、これまで生きてこられた喜びを素直に味わえば良い。
チナミに、最近は〈茶寿〉というのがあるそうだ。草冠が十の横並びで二十、下の造りの八十八を足して、俺もお茶(オチャケ)を飲みながら百八まで・・・。
(『ふだん記通信五号』平成五年五月十日)