自分の顔をつくづく眺めて

 と言う事は、版画の最初のテーマが自画像で、鏡の自分をアップで何時間も見詰め乍らスケッチをした。全く初めての体験だった。こんな顔だったのかなあーと、目、鼻、口、耳、眉毛、などの各サイズ、バランス、又々皺、白髪の数など、うーん……これらを見詰めていると、六十八年来の事が次々と思い出され、年代がずーっと遡っていく。
 ふっと廻りから声が掛かって、現代、今に帰る。過去を思い浮かべ、将来を想い、又上を見、下を見て己れの現在地を知る。
 今己れに何が出来るのか、とか、この辺りに何度目かの出発点があるのでは……
                         おわります。

        (『紫陽花』平成三年十二月日より)